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【special interview】吉田行郷先生

  • 自然栽培パーティ新聞
  • 2023年7月18日
【special interview】吉田行郷先生
  • 取材:2023年7月6日@千葉大学松戸キャンパス
  • インタビューアー:森田早紀
  • カメラ:下田あかり

  

——吉田先生、お久しぶりです!今日はよろしくお願いします。

  

よろしくお願いします。

  

——吉田先生のことを知っている読者さんも多いと思いますが、改めて自己紹介、特に農福連携に関わるようになったきっかけのお話、お願いします!

  

そうですね、もともとは農林水産省で行政官として働いていて、その頃に生まれた子どもが自閉症と診断されたんですね。人事に相談して、勤務時間の融通が利く同省の研究所に移らせてもらいました。
最初は国産小麦の研究をしていたのですが、ある日テレビを見ていたら、重度の障害のある方々が農業で生き生きしている取り組みが特集されていて。ああ、こういう世界があるのか!と。
農業の仕事をずっとしてきて、自分の息子に障害があって、両方の世界が分かる僕みたいな人間がこの研究をしたらきっと役に立てるのではないかと思って始めました。当時は研究している方もほとんどいなかったので、研究仲間を募るところからのスタートでした。
楽しいしすばらしい世界なので、その役に立てたら嬉しいし、自分も生きていて良かったなと感じられると思っています。なので少しでもお手伝いが出来たらという気持ちで、研究したり広報活動したり、あと、お節介を焼いて、人と人をくっつけたりしています(笑)。

  

——何年間も研究してきて、今後の農福連携の可能性はどこにあるとお考えですか?

  

今の僕のキャッチフレーズは「働ける障がい者のための農福連携から働けない障がい者のための農福連携へ」、そんな波がぐぐーっときてますね。というのも、働ける障がい者のための農福連携は、各地で上手く回りだしてくれているので(各地域に、マッチングコーディネーターとか、色々なノウハウを研究してくれている人たちとかがいて、上手く回りだして・・・)、もう僕が何かしなくてもいいかな、という感じです。
これに対して、オランダで2万人が使っているケアファームみたいな、働けない人たちのための農福連携はまだまだです。日本の人口に換算すると15万人規模の潜在的なニーズがあるはずなのに、国内の取り組みを探しても少ししか見つからない。なぜかといえば、活動資金の問題がありますし、加えて色々な偏見もあると思っています。重度の方は可哀そうだから、農作業なんかをやらせるのは、という声も聞きます。ハードルはいっぱいありそうですが、オランダであれだけやっているということは、日本にも絶対ニーズはあるはずなので、そこをちゃんと応援していきたい。幸い、農林水産省の方も、これからの農福連携としてユニバーサル農業と打ち出してくれているので、一緒にやっていけたらと思っています。
そんな感じで、働けないとしても豊かな人生を送るための農福連携の可能性は高いし、ニーズもあると思っています。

  

——どういう風に発展していくのか、具体的に何かありますか?

  

公的な体験農園等をユニバーサルなものに衣替えしていくとか、病院や高齢者施設が行うとか、障害者のための生活介護の支援を上手く使うとか、色々やり方はあると思っています。

  

——話は少し移るのですが自然栽培と農福連携の親和性は感じていますか?

  

僕はいつも、有機栽培も自然栽培も、農福連携との親和性が高いという話はしています。まず農薬を使わないから危なくないというのがありますね。それから農薬を使わない分、人海戦術になる訳ですけど、人手不足はない。あと、障害のある方たちって自然に近いものに敏感な気がするんですよね。だから、より自然に近い形の農業の方が、人工的に肥料や農薬などで効率的にやりましょうという農業よりも相性がいいのではないかと思っています。実際に有機や自然栽培でやっている現場も多いわけで。
ただし、何が何でも自然栽培、有機栽培で押し通すというのは、ちょっと厳しいときがあるように感じています。
気候による適地適作の問題もありますし、今の農産物は、肥料農薬を使う前提で品種改良されてきているので、自然栽培でやろうというのは無理がある場合もある。果物で言えば、甘さを優先して病気に対する耐性を犠牲にした改良とかがされてきています。作る作物は選ばなくてはいけないと思う。
それと、有機栽培と自然栽培には仲良く助け合ってやっていってほしいです。
農林水産省が2050年に有機農産物の作付面積を全体の25%にするという目標を示しましたが、そのうちの10%くらいを自然栽培が占めていたらいいなあと思ったりしています(笑)。

  

——自然栽培パーティのこれまでについて感じていることを教えてください。

  

一時期、会員数が停滞した時はちょっと心配しました。でも最近は、レベルの高い栽培指導など技術サポートがしっかりしてきたおかげで、地に足の着いた自然栽培をやっている取り組みが増えてきているように感じています。あと、僕は、自然栽培パーティが、上手くブランドイメージを作れたのはとても良かったなと思っています。お祭り感のあるパーティという名前、それにのぼりを立てて、みんなで同じTシャツを着て取り組む。とても楽しそうな雰囲気を作ることができました。農福連携全体のイメージアップにも貢献してくれていると思います。

  

——これからパーティに期待することはありますか?

  

是非、販路をしっかり確保して、皆さんが安心して作れるようにして欲しいです。今、日本でもニッチな市場が拡大しています。そして、みんな物語に飢えています。自然栽培パーティは、消費者に訴える物語をとても作りやすい活動だと思っています。慣行農業とは喧嘩せず、物語で勝負です!(笑)

  

——今の吉田先生にとって、これこそが!という農福連携の本質をワンフレーズでお願いします!

  

障がい者を応援しようと始まった取組なので、やはり、「障がい者ファースト」という点は大事にしたいですね。
農作業をとにかくやりきらないといけないという意識が強すぎたり、とにかく何が何でも工賃を上げるぞという点に捕われすぎて、障がい者が置き去りになっていた、なんてことがないようにしたいですよね。
農業と福祉が力を合わせて、障がい者を盛り上げよう、応援しようという取り組みとして、「農福連携」という言葉が生れてきて、みんなが使うようになったと思うので。

  

——最後に、パーティの皆さんにメッセージを頂けると嬉しいです。

  

いつもパーティ新聞やコトノネに掲載されてる農福師の話を楽しみにしています!皆さんの活動を色んな場で見させてもらって元気をもらっているので、今後も面白かったこと、楽しかったこと、素敵なエピソードをいっぱい届けてくれたら嬉しいです。

  

——ありがとうございました!

  

編集後記

実は吉田先生にお話を伺うのは2回目で、前回はオランダの大学で社会的企業についての卒論を書いている際にお世話になりました。前回に引き続き、次から次へと出てくる事例・統計・構想などに圧倒されてばかりで、吉田先生の農福連携への愛が伝わってきたインタビューでした。これからはオランダを参考にした日本版ケアファームを確立させていくとのこと。私にできることがあればぜひ協力したいと思いました。


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